長らくお休みを頂いて、久しぶりの更新。年初で忙しかったとはいえ、頻度を上げないと。センターも更新されたので、今年もシューイチで取り掛かっていくつもりだ。
今回は、少し時期を外した感もあるが、最近のニュースを少し異なった視点から語ってみたい。
ニュース等で見た人もそれなりいると思うが、週刊SPAの記事に対して女性軽視の批判がでている。
SNS等みていると賛否は色々あるみたいだが、ボクは上記サイトの中から
法務総合研究所「第4回犯罪被害実態(暗数)調査」によると、日本で性暴力を訴える女性はわずか18.5%となっています。
残りの81.5%は?
我慢しています。
性犯罪も、痴漢も、わいせつも日本の社会では「範囲内」だから。世界では、5人に1人の女性が18歳の誕生日を迎える前にレイプ、もしくは性犯罪に合います。
法務省のデータによると、性犯罪で訴えられる人の10人に1人しか、罰しられません。
部分に焦点を当てて考えてみたい。
事前に言っておくが、これから展開する内容について数値の妥当性を非難したり、それをもって主張を否定するものでは全くない。
引用の主張において、日本の性暴力を訴える女性はわずか18.5%らしい。
ここで緻密な議論をするのであれば、抑えておきたいのが言葉の定義と数字の根拠だ。公的機関が発表したデータをもとに、なんとなくこんな解釈できるでしょという態度はよろしくないので、このあたりを抑えてみたい。
この主張はちゃんと引用元を書いてくれているので、まずそこを開いてみる。
このPDFのP7.「第4節 性的な被害」から該当箇所は始まる。
この調査は無作為抽出によって得られた2,156人が母数になっている。このうち、27人が過去5年間に性的被害にあっている。男女比率はほぼ1:1で、1,013人と1,114人が内訳で、被害にあった27人中26人が女性らしい(男性は1人だけ)。この他、年齢別、就業別、婚姻別等いくつかの観点で内訳がある(資料参照)。
ここで、性的被害とは言葉による性的な嫌がらせは含めていない(と書いてある)。つまり、接触がある被害、或いは会社における処遇や環境における嫌がらせなどが残る。言葉による性的な嫌がらせでは犯罪になりにくく、それ以外の状況を伴って申告すべきものとなるためだろうか(予想)。回答には、セクハラ、痴漢、強姦、その他不快な行為があり、痴漢、強姦は明らかに犯罪だが、残りも言葉によるものを除いてあることを考えれば犯罪色が濃くなるのだろう(予想)。
この資料において、目下関心事の申告ありの件数は27件中5件で比率は18.5%になっている。残り22件はすべて未申告ということではなく、無回答2が含まれる(たった2かよと思うかもしれないが、全体数がそもそも少なくて、無回答を比率で表すと7.4%)。泣き寝入りしたかもしれない未申告数は20件で、74.1%だ。
この未申告者20人(74.1%)のうち、「それほど重大ではない」と回答したのが4名。これをどう捉えるかという話はあるが、本人が気にしていない=我慢していない、と解釈できる。しかし、無意識に我慢しているが、社会風潮に飲み込まれ感性が鈍化しているのかもしれない。つまり、気にしていない、もしくは感覚が麻痺している人が未申告者のうちの15%を占める。
…と記載されている数値をもとに雑感を述べてみたけど、一番気になっているのはこれらのもとになっているサンプルサイズだ。2,156人を調査して、そのうちの27人を性質をもって我が国の傾向と判断することは適切だろうか。
つまり、性的被害の申告比率、25人中20対5(2人の無回答除く)は日本全体における比率と比較して有効だろうか。
ここで母比率を区間推定してみることが有効になる。
25人の標本を申告した人を1、申告していない人を0としてそれぞれ値を設定した
$ X_{1}, X_{2}, \cdots X_{25} $
からできる標本空間で考えてみる。
ボクらは今、母比率どころか母分散もわかっていない。細かい説明は端折らせてもらって、こんな場合は不偏分散を用いてt分布で推測する。
今回のケースにおいては、自由度24(25-1)のt分布なので巷に転がっているt分布表を参考に
$-2.06 \leq \frac{\overline{X}-\mu}{U/\sqrt{n}} \leq 2.06$
を満たす(95%信頼区間)。$\overline{X}, \mu , U, \sqrt{n}$は、それぞれ標本平均、母平均、不偏分散、データの個数の平方根だ。
ここで、この中で求まる値$\overline{X} , U, \sqrt{n}$をそれぞれ求める。
$\overline{X}=\frac{X_{1}+ X_{2}+ \cdots +X_{25} }{25}=\frac{5}{25}=0.2$
$U^{2}=\frac{5 \times (1-0.2)^{2} +20\times (0-0.2)^{2}}{25-1} \fallingdotseq 0.17$
$\therefore U\fallingdotseq 0.41$
$\sqrt{n}=\sqrt{25}=5$
これらの値を最初の不等式に放り込んで、$\mu$について整理すると
$0.03 \leq \mu \leq 0.36$
となる。
この区間は95%の確率で母平均を含めることに成功していると考えることができる。
もしこの信頼区間の下の方に母平均が捕らえられていれば、本当に申告率が低いねってことになるし、逆に上の方に捕らえられていれば他の犯罪の同程度と解釈することも可能だ。
ここで注意してほしいのは、サンプル数が少ないゆえにある程度幅を持ってしか母平均を推定することは敵わないわけで、これをどう捏ねても今回の訴えを否定するような材料は出てこない。他の犯罪と同程度の申告率である可能性が潜んでいるが、そもそも他の犯罪も申告率が意外にも低いともとれる。他方、申告者がわずかで、残りの割合の人が「我慢している」という主張はもしかしたら言い過ぎなのかもしれない。
個人的に思うのは、今回の件は統計的データ(「第4回犯罪被害実態(暗数)調査」)は強力な武器にはなりにくい。もちろん全体的な犯罪申告率の低さや、性的被害の無回答率の高さの背景など気になるところはあるけど今回の件と直接は関係なさそうだ。
とはいえ、大学を学校毎一纏めにして傾向を記者の感性をもとに記載するなんて、批判はもっともだし、記載が事実ならそれこそ統計データによる裏付けをするべきだ(それが可能になったら、女性軽視とは別の社会問題の発見に繋がりそうだが)。
ちなみに。 今後の高校の数学課程では、統計分野により時間が割かれることになる。これは、今回のような主張を展開するとき、適切なデータによる事実の把握に有効だ(新課程がどこまでの内容を含んでいるのか知らないけど)。よく高校で学習した数学の内容は役に立たない・習ってどうするんだという批判をみるけど(ボクはあまり賛同しない)、それに対する一つの答えにもなるはずだ。
よし、また更新頻度をあげて頑張っていくぞ!(今のとこ)

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