一行だしタイトルに問題を入れてしまえと思ったら、数式使っているとTwitterとかRSSなどの各所できれいに表示されなくなるから断念。
ということで今回は、前回問題を投げかけたところで終わったこのカテゴリ【一行問題】の解説編。
まずどんな問題だったかおさらいしておこう。前回正しく問題が表示されてなくてゴメンナサイ(修正対応済)。
$ \tan1^{\circ}$は有理数か。
一行どころか、大学受験数学史上最短の噂もあるこの問題(京都大学 2006)。
初見だとこのシンプルさをみて、難しいに違いない!と思うかもしれないけど、そんなことはない。
まずは見たこともない問題に対処するときの作法として、目の前の情報と持っている武器(知識)を整理する。
この問題では
の情報が読み取れる。
順番に整理していこう。ここでの整理するとは自分の知っていることとの結びつきを確認することだけど、すべての結びつきを網羅するというより定義と基本的な定理あたりが抑えられれば十分だ(というか網羅するとか、ときに超難作業になりかねない)。
$\tan$の定義は
任意の角$\theta$に対し、
$\tan \theta = \dfrac{\sin \theta }{\cos \theta }$
だ。 この中にでてくる$\sin \theta $、$\cos \theta$は単位円上の座標として定義されるわけで、同様に座表面上で捉えると単位円周上の点と原点を結ぶ直線の傾きを表していることになる。
あと基本的な定理といえば、$\sin \theta $、$\cos \theta$のように正弦定理や余弦定理的なものはなくて(正確に言うとあるけど、高校までの数学過程には登場しない)、あと$\tan$が登場するものといえば加法定理くらいだろうか。
2. 1°であること
これには2つの側面があって、三角関数の角度にあたる値であることと、掛け算についての単位元であることだ。
三角関数の角度にあたる値であることって、見た目に明らかじゃないかといわれてしまいそうだが、大切なのは関数値を知らない角度ということだ。ボクらはいわゆる有名角の倍数でなければ値を求めることは困難だ。だからこの問題だって素直にはいかない。
掛け算についての単位元であることというのは、左からかけても右からかけても値に影響を与えない値、換言すると、任意の値をかけることで任意の値になる値ということだ。だから何だと思う人は単位ベクトルなどのありがたさに気づいていないことだろう。
例えば、色んなタイプの異性がいるときに、そのクオリティを揃えたあとで自分がどの異性に関心があるかをみれば自分の趣向がわかる。クオリティがそろっていないと、タイプでもない異性がたまたまクオリティが高いとき、心奪われてしまい自分の趣向がよくわからないなんてことになる。数学における単位ベクトルは、方向だけを利用したいときに長さの概念を捨て去る(考えなくてよくする)というメリットがある。
1という数字は特別な値ということだ。
問題では有理数かと問われているだけだが、そもそも無理数の定義が有理数ではないことなのでニコイチの数だ。
で有理数ってなんだったけと思い出しておくと
有理数とは、整数の比であわらすことのできる数
である。つまり分母も分子も整数な分数で表現ができるということだ。
これら1.〜3.のことを踏まえて問題を解いてみる。
まず改めて、有理数かと問われている。ということは、整数の分数で表現できるかと問われていることと同じだ。判別するためにはこの形の検討ができるようにする必要がある。つまり、これはゴールの形だ。1.〜3.のうち、3.はゴールの判別の道具となる。
ここで、スタートとゴールのシナリオを考えてみよう。3.はゴールなので、1.と2.の使いどころを考えてみる。
1.の$\tan$の定義とか定理とかを考えてみても、結局1°の壁が超えられないからいいことはなさそうだ。ということで2.を考える。
1°であること。ここから三角関数の角であることと、単位元であることに分かれるのだった。つまり有名角しか三角関数の関数値はだせないよということと、好きな値を作れる値だよということだ。
ということは、好きな値を作れるんだから、有名角も作れるよねというスタートを切れそうだ。
例えば、3°を作りたい場合、
$\tan(1^{\circ} \times 3)$
とかける。でもこのままでは1.の使いどころがよくわからない。
ここで1.が使えるようにできないか悩んでみる。定義を当てはめてもいい変形にはなりそうにない。定理の方は加法定理なので、足し算である必要がある。
お。掛け算でなくて足し算だったら加法定理が使えるじゃんと考えると、掛け算を足し算で表現したくなる。そして、待望の1.が活きてくる。つまり
$1^{\circ} \times 3=1^{\circ} +1^{\circ} +1^{\circ}$
として捉え直してみるということだ。掛け算て足し算の回数のことだよねという話。
こうすると、
$\tan 1^{\circ} \times 2=\tan (1^{\circ}+ 1^{\circ} )=\dfrac{\tan 1^{\circ} +\tan 1^{\circ} }{1-\tan 1^{\circ} \tan 1^{\circ} }$
と書ける。分数がでてきたから判別ができそうだ。
$\tan 1^{\circ}$が有理数なら、$\tan 2^{\circ}$も有理数とわかる。これはまだ2°なわけで、もう1°進むと
$\tan3^{\circ}=\tan(1^{\circ} +2^{\circ} )=\dfrac{\tan1^{\circ} +\tan1^{\circ} }{1-\tan 1^{\circ} \tan 2^{\circ} }$
となるから、$\tan3^{\circ}$だって有理数だとわかる。
こうやって1°ずつ進んだ先に有名角はあるわけで、そのうちご存知30°にもたどり着く。
仕組みとしては、1°ずつ進むことで有理数であることを繰り返していくわけだけど、たどり着いた果ての30°は
$\tan 30^{\circ}=\dfrac{1}{\sqrt{3}}$
なわけで有理数ではない(つまり無理数。$\sqrt{3}$が無理数であることは各自で証明してもらいたい)。ということは、なにかがおかしい。もちろんそれは$\tan1^{\circ}$を有理数とおいたはじめの一歩がまずかったということになる。
つまり、$\tan1^{\circ}$が有理数だと仮定すると、$\tan 30^{\circ}=\dfrac{1}{\sqrt{3}}$$に矛盾がおきる。ということで$\tan1^{\circ}$は無理数だとわかった。
知っていること(基本事項)でちゃんと解けるし、シンプルだしで頭の体操的問題にはとても向いている。もし何か数学の問題出してといわれたときには、これを出題してみるのもいいかもしれない。